不動産投資経験者がソーシャルレンディングを評価する際に重視すべきポイント
不動産投資経験者がソーシャルレンディングを評価する際の視点
不動産投資による資産運用を経験されている方にとって、ソーシャルレンディングは新たなインカムゲイン獲得の手段として注目されています。不動産投資で培われた知見は、ソーシャルレンディング、特に不動産担保型ファンドを評価する上で非常に有効な視点となり得ます。しかし、両者には異なる特性も存在するため、その違いを理解し、適切な評価を行うことが重要です。
この章では、不動産投資のご経験をお持ちの方がソーシャルレンディングを検討する際に、どのような点に着目し、どのように評価を進めるべきかについて詳しく解説いたします。
不動産投資とソーシャルレンディングの共通点と違い
ソーシャルレンディング、特に不動産を担保とする案件は、対象資産が不動産であるという点で不動産投資と共通点があります。どちらも不動産が生み出す収益や価値を基にした投資と言えます。しかし、大きな違いも存在します。
- 投資形態: 不動産投資は現物不動産や不動産小口化商品への直接・間接的な投資であるのに対し、ソーシャルレンディングは「貸付」という形態をとります。投資家は資金をプラットフォーム事業者経由で借り手に貸し付け、その利息と元本の償還を受け取ります。
- 管理の手間: 不動産投資では物件の管理(入居者募集、修繕、税務申告など)に手間がかかることが一般的ですが、ソーシャルレンディングはプラットフォームが全ての手続きを行うため、投資家自身の手間はほとんどかかりません。これは、手間をかけずに効率的に運用したいというニーズに適しています。
- 流動性: 不動産は一般的に流動性が低い資産ですが、ソーシャルレンディングも運用期間中は原則として資金を引き出せない(流動性が低い)点が共通しています。ただし、ソーシャルレンディングは個別の案件ごとに運用期間が比較的短期間に設定されている場合が多く、不動産投資よりも資金が拘束される期間が短い傾向があります。
- リスク: 不動産投資には空室リスク、修繕リスク、価格変動リスク、金利変動リスクなどがあります。ソーシャルレンディングにおける主要なリスクは「デフォルトリスク」です。これは借り手が返済不能になるリスクであり、担保がある場合でも回収が困難になる可能性があります。
不動産投資経験者が重視すべきソーシャルレンディングの評価軸
不動産投資経験者がソーシャルレンディングを評価する際には、その経験を活かしつつ、新たな視点を加えることが有効です。
1. 担保不動産の評価方法
不動産投資経験者は、物件の立地、築年数、構造、周辺環境などから、その価値や収益性、流動性についてある程度の判断が可能です。ソーシャルレンディングの不動産担保案件においても、提供される情報(担保物件の詳細、所在地、評価額、評価方法)を精査することが重要です。
- 担保掛け目(LTV)の確認: 担保評価額に対する融資額の割合(LTV: Loan To Value)が低いほど、デフォルト時の回収率が高まる可能性があり、リスクは低いと判断できます。不動産投資におけるレバレッジとは異なる視点で、安全マージンとして評価することが大切です。
- 担保評価の妥当性: プラットフォームが提示する担保評価額が、市場価格や過去の取引事例と比較して妥当かを確認します。不動産投資で培った相場観が役立つでしょう。鑑定評価書の有無や、評価機関の信頼性も確認すべきです。
- 担保権の種類と順位: 担保が第一抵当権であるか、それとも劣後する順位の担保であるかを確認します。第一抵当権であれば、デフォルト時の回収順位が優先されるため、安全性が高いと言えます。
2. 借り手(事業主体)の信用力と事業計画
不動産投資では、物件そのもののポテンシャルに加え、賃借人の信用力や賃貸需要も重要です。ソーシャルレンディングでは、資金を借り入れる事業主体(多くは不動産事業者)の信用力と、その事業計画の実現可能性が最も重要な評価ポイントとなります。
- 借り手の情報開示: プラットフォームが借り手に関する情報をどの程度開示しているかを確認します。法人の設立年数、過去の実績、財務状況の一部開示などがあれば、信用力を判断する材料になります。
- 事業計画の実現可能性: 融資の目的(開発プロジェクト、借り換え、事業資金など)や、その事業が計画通りに進む可能性を評価します。不動産開発経験があれば、プロジェクトのスケジュールや収支計画の妥当性をより深く検証できるでしょう。
- 返済原資の確認: 返済が不動産売却益によるものか、賃料収入によるものかなど、具体的な返済原資が明確になっているか、その蓋然性は高いかを確認します。
3. プラットフォーム運営会社の信頼性と案件審査体制
ソーシャルレンディングでは、プラットフォーム事業者が案件の募集、資金の管理、返済の回収、そして万一のデフォルト時の対応を行います。この運営会社の信頼性が、投資の成否に大きく関わります。
- 運営会社の情報: 会社の設立年、資本金、株主構成、経営陣の経歴などを確認します。金融事業や不動産事業に関する知見や実績があるかどうかも重要な判断材料です。
- 過去の運用実績とデフォルト率: これまでの組成ファンド数、償還完了率、デフォルト件数とその回収率などの実績データを公開しているか確認します。特にデフォルトが発生した場合の投資家への情報開示姿勢や対応状況は、信頼性を測る上で重要です。
- 案件審査体制: どのような基準で案件を選定し、リスク評価を行っているか、専門的な審査部門があるかなどを確認します。不動産投資経験があれば、その審査基準が専門家の視点から見て納得できるものか判断しやすいでしょう。
- 分別管理とセキュリティ: 投資家から預かった資金が運営会社の固有資産と区別して管理されているか(分別管理)、システムのセキュリティ対策は十分かを確認します。
まとめ
不動産投資のご経験は、ソーシャルレンディングにおける不動産担保案件の担保評価や事業計画の妥当性を判断する上で、非常に強力なアドバンテージとなります。しかし、ソーシャルレンディングは「貸付」という金融商品であり、借り手のデフォルトリスクが主要なリスクとなる点を理解することが重要です。
高額投資を検討される場合は、特に以下の点に留意し、プラットフォームと個別案件を慎重に評価してください。
- 担保不動産の評価の妥当性と担保設定状況
- 借り手である事業主体の信用力と事業計画の詳細
- プラットフォーム運営会社の不動産・金融に関する専門性と過去の実績、審査体制
これらのポイントを踏まえ、ご自身の不動産投資経験から得た知識を活かしながら、ソーシャルレンディングを効率的な資産運用手段として賢く活用されることを願っております。